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論文
株式にっぽん5月1日号
日本再生のストラティジー 〜円安誘導策で日本経済は復活するか〜
なぜ過去の景気対策が効かなかったのか
 過去景気対策は10回以上、総額約130兆円に上るが、それでも景気は回復しなかったということになっている。これらは国の借金を増やすだけで害あって益なしだったのだろうか。
 景気回復のために円安誘導を行うという案が議論されている。NEEDS日本経済モデル【脚注】を使い、どの程度円安誘導の効果があるのかを調べてみよう。これをシナリオEとよぶことにし、次の2つのケースでシミュレーションをしてみる。但し、公定歩合は0%に保ち、長期金利は内生化(シミュレーションで求める)する。
【シナリオE】
 対ドル円相場が実際の水準より50円又は100円低い水準で5年間保たれたとする。
 これを次の大規模減税のシナリオと比べてみよう。
【シナリオB(大規模減税策)】
 地方税まで含めた税金を毎年約60兆円減額する場合を考える。内訳は消費税率をゼロにし(10兆円減税に相当)、それに法人税減税20兆円、所得税減税30兆円である。ただし2000年はまだ景気の回復が十分でなく税収が少ないので法人税の減税は18兆円、所得税の減税は29兆円に止めてある。2001年以降は、それぞれ20兆円、30兆円の減税を行っている。つまり2000年は57兆円の減税、その次年度以降が60兆円の減税という意味である。
 <図1>に実質GDPの推移を示した。政策実施5年後の2004年には実質GDPは、現状維持に比べ2.4%(50円下落)又は3.7%(100円下落)となっているのに対し、60兆円減税策では10倍以上の26.6%となっている。株式にっぽん3月15日号では減税と公共投資で景気刺激をした場合(シナリオA)は名目GDPで約28%の増加であると書いた。このことから、財政拡大策は、円安誘導策より10倍以上効果があることがわかる。
<図1>
図1 実質GDP
<図2>
図2 失業率
 図2では失業率の推移を示した。これより、減税の場合は失業率は、一気に減少していくことが、分かるが円安誘導の場合でもかなり改善していることが分かる。これは景気が回復するときは、失業率の低下がまず起こり、その後でGDPが拡大していくということを意味している。例えば50円の円安誘導の場合は、5年目の2004年には、4.21%まで下がっているが、減税策では1年目で4.41%、2年目で3.86%にまで下がっている。公共事業も組み合わせたシナリオAでは、1年目ですでに4.2%まで低下している。
 これらのことから分かることは、円安誘導策は財政拡大策に比べ効果は10分の1以下であり、過大な期待をすべきではないということである。しかも貿易摩擦が拡大するという欠点もある。これに比べ、財政拡大は、効果は10倍以上である。恐らく多くの人が気にするのは、60兆円の財政出動に伴う国債発行額の増大・インフレ・国債の暴落だろう。
 2003年3月15日号でも述べたが、これらは心配無用である。5年間の平均インフレ率はシナリオAで2.6%、シナリオBでは1.8%であり、マイルドなインフレが達成され、デフレからの脱却が可能となる。シナリオA, シナリオBの両方とも長期金利は買い支えたため、国債の暴落は起きない。もしも買い支えなかったら、長期金利は両シナリオ共3.8%にまで上昇する。これは5年間でここまで上昇するということであり、年平均では、0.76%であり、長期国債の下落幅は3%程度となる。この程度の下落に対応する方法はいくらでもある。
 3回前の号で述べたように、財政拡大により、日本経済は1980年代の活気を取り戻すことができる。法人企業利益は現状維持の政策を続けた場合に比べ、シナリオAでは3倍、シナリオBでは2.8倍にもなる。キャッシュフローが潤沢になるために、日経平均株価はシナリオAでは32000円、シナリオBでは28000円にまで急上昇する。しかも税収が伸びて財政が健全化するということは3月15日号ですでに述べた。これだけの繁栄をもたらすような政策を、長期国債の下落という些細な理由のために躊躇すべきでないのは明らかであるし、効果の少ない円安誘導策などで、お茶を濁すべきでもない。
 今年の1月に経済財政諮問会議が出した『改革と展望−2002年度改訂(内閣府作成)』と比較してみよう。この政府案では2010年に名目GDPは584.6兆円、失業率は4.4%となっているが、例えばシナリオAでは2年目で、名目GDPは586兆円となりこれを追い越し、失業率はすでに1年目で4.2%となり政府案以上の改善を達成している。つまり政府が目標としている数字は、財政拡大なら1〜2年で達成してしまう事が分かる。
【脚注】 本稿は日経新聞社のデータバンクであるNEEDSを使っていますがその結果の解釈には日経新聞社は関与していません。
東大英数理教室
小野盛司
(おのせいじ)
1946年広島県生まれ。1974年東大理学部(理論物理)で学位取得後、カリフォルニア大学等で研究と教育を行う。帰国後、ベストセラー教育ソフト『PC教育シリーズ』を開発、東大英数理教室等3つの会社を設立。経済に関しても、多くの経済学者・文化人・財界人・国会議員とのコンタクトを持ち日本経済復活の会を組織し、現在その会長。
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