日本経済復活の会
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AJER 04-01
日本経済はこれでよいのか
2004年2月23日
日本経済復活の会会長 小野盛司
 経済財政諮問会議は平成16年1月16日に構造改革と経済財政の中期展望を発表した。
 小泉首相は、日本経済の未来はどうなるのかという質問に対し、この中期展望を見てくれと発言していることを考えれば、政府目標はまさにここに示されているのであると思われる。景気が良くなっていると言われるが本当にこれでよいのかを検討してみる。以下に示す表で政府目標と書いたのが、経済財政諮問会議が作成したものである。毎年1月に発表している。2002と書いたものが2002年1月、2003と書いたものが2003年1月、2004と書いたものが2004年1月に発表されたものである。
 財政を拡大し景気を刺激するとどうなるのかということで、日経新聞社のNEEDSを使って計算したものと比べてみよう。比較するのは次のシナリオである。
【シナリオA】
 このシナリオは、減税だけでなく公共投資も並行して行うものである。過去に行われた、あるいは現在行われている政策に追加して次のような財政出動を行うものとする。計算上公共投資としたが、それ以外の政府支出でも、結果には大きな影響は無いものと思われる。政策開始は計算の都合上2000年からとする。
1.毎年公共投資を35兆円増額する。
2.次のように法人税減税をする。
  2000年度 20兆円、 2001年度 25兆円、 2002年度 25兆円、
  2003年度 25兆円、 2004年度 25兆円
 まず、表1に示した政府の名目GDP成長率予測であるが、2%程度の低成長が続くという見通しである。米国が4%、中国が8%成長をしているときに、日本はそれらより遙かに低い成長率になるというのは、日本経済に成長能力がないというと思っているのだろうか。
<表1>名目成長率(%)―政府目標
  2001
年度
2002
年度
2003
年度
2004
年度
2005
年度
2006
年度
2007
年度
2008
年度
2009
年度
2010
年度
2002 −2.4 −0.9  0.6 2.3 2.5 2.9       2.9
2003   −0.6 −0.2 0.5 1.5 2.2 2.6     3.2
2004      0.1 0.5 1.4 2.1 2.5 2.9    
 しかしながら、強力な景気刺激をするシナリオAだと遙かに高い成長率を見込むことができる。5年後の名目GDPは696兆円であり政府の2008年度の名目GDP見通しである547兆円をはるかに上回る水準である。これは、政府案では企業が資金不足・需要不足で伸び悩む一方、表2で分かるように、シナリオAでは企業の設備投資が伸び需要が拡大し、稼働率も高まるために労働生産性が高まり経済が力強く成長するということである。むしろこちらが、日本経済の実力というべきであり、政府案は資金不足の状態下での経済で、『半窒息状態で走れ』と言っているようなものだから、まともな成長ができるわけがない。
<表2>名目成長率(%)―シナリオA
  2000年度 2001年度 2002年度 2003年度 2004年度
シナリオA 9.2 5.1 6.4 6.1 5.2
 実質成長率での比較は表3,4からわかるように、やはりシナリオAのほうが政府案よりはるかに改善されたものになっている。
<表3>実質成長率(%)―政府目標
  2001
年度
2002
年度
2003
年度
2004
年度
2005
年度
2006
年度
2007
年度
2008
年度
2009
年度
2010
年度
2002 −1 0.0 0.6 1.5 1.5 1.6       1.9
2003   0.9 0.6 0.9 1.3 1.5 1.6     1.9
2004     2.0 1.8 2.0 2.0 2.1 2.1    
<表4>実質成長率(%)―シナリオA
  2000年度 2001年度 2002年度 2003年度 2004年度
シナリオA 11.7 5.6 5.8 3.6 1.3
 表5,6では失業率での比較である。資金不足の日本企業では充分人を雇うわけにいかず、膨大な数の失業者が存在し続ける。つまり膨大な無駄が続くことを意味している。財政を拡大したシナリオAでは、企業の設備投資が拡大し、雇用が生まれ失業者が激減していく。
<表5>完全失業率(%)―政府目標
  2001
年度
2002
年度
2003
年度
2004
年度
2005
年度
2006
年度
2007
年度
2008
年度
2009
年度
2010
年度
2002 5.2 5.6 5.6 5.4 5.2 4.9       4.2
2003   5.4 5.6 5.7 5.6 5.4 5.2     4.4
2004     5.2 5.1 5.1 4.9 4.8 4.6    
<表6>完全失業率(%)―シナリオA
  2000年度 2001年度 2002年度 2003年度 2004年度
シナリオA 4.18 3.6 3.05 2.46 2.11
 表7では、国・地方の借金がどうなるかを示した。これを見れば、小泉首相が何を勘違いしたかが理解できる。彼のシナリオは緊縮財政にすれば、財政が改善していくと思っていたようだ。表7の2002の行を見れば、あの当時楽観的すぎる考えを持っていたことが分かる。それでも2010年まで借金は増え続けるし、それ以後も更に増えると考えていたのは、これから分かるのだが、2010年は808兆円に抑えられる(抑えると言っても2001年に比べ41%もの増加)と考えていたのである。しかし、実際に緊縮財政をやってみると税収が減って、予想外に借金が増えてしまったので翌年には、2010年に国・地方の借金は856兆円だろうと慌てて訂正している。
<表7>公債等残高(兆円)―政府目標
  2001
年度
2002
年度
2003
年度
2004
年度
2005
年度
2006
年度
2007
年度
2008
年度
2009
年度
2010
年度
2002 569.6 602.8 634.3 664.8 693.3 719.9       808.1
2003   604.8 641.3 677.3 711.0 742.5 772.8     856.0
2004     639.6 674.2 706.0 736.0 764.6 791.5    
 表8で分かるように政府案では、2010年になっても名目GDP比でみた国・地方の借金も増え続けている。これは緊縮財政を続けたときの結果である。シナリオAの場合には、表9では、この比は財政拡大の2年目が最大であり、それ以降は減少に向かうのである。それは名目GDPと税収の両方が急速に増加するために、この比が減少に向かうということだ。
<表8>公債等残高/名目GDP―政府目標
  2001
年度
2002
年度
2003
年度
2004
年度
2005
年度
2006
年度
2007
年度
2008
年度
2009
年度
2010
年度
2002 1.113 1.215

1.270

1.301 1.324 1.339       1.345
2003   1.211 1.286 1.352 1.398 1.428 1.449     1.464
2004     1.284 1.347 1.391 1.420 1.439 1.447    
<表9>国・地方の長期債務/名目GDP―シナリオA
    (若干政府目標のものと定義が異なる)
  2000年度 2001年度 2002年度 2003年度 2004年度
シナリオA 1.271 1.306 1.290 1.249 1.204
 小泉首相は、プライマリーバランス(国債・地方債などの「借金」関係分を除いた財政収支)が緊縮財政で改善すると思っていたようだ。表10で分かるように、2002年の彼の見通しでは随分楽観的なものであったが、実際に緊縮財政を実施してみると、極めて厳しい結果となり、慌てて翌年の2003年には、ずっと悲観的な値に変えている。実際2002年度には3.6%の赤字みまで改善すると予想していたのが、翌年には5.4%の赤字にまで悪化すると言わざるを得なくなった。出費を抑えれば赤字は減るはずというのは、あまりにも素人的な発想であった。実際は改善どころか悪化の一途をたどっているのである。失敗を隠すために平成13年度に黒字化を目指すという目標に変えたのだが、このような目標が何の意味があるだろうか。万一この目標が達成できなくても、それは自分の次の政権が失敗したからと言えばよいわけで、これは目標という名に値しない。自分の任期中に何をやるかを言わなければ何にもならない。緊縮財政なら税収が落ち込み、プライマリーバランスは悪化し、逆に積極財政をすれば、税収が増えてきて、プライマリーバランスは改善する。政策の誤りに気付いて欲しいものだ。
<表10>プライマリーバランス(%)―政府目標
  2001
年度
2002
年度
2003
年度
2004
年度
2005
年度
2006
年度
2007
年度
2008
年度
2009
年度
2010
年度
2002 −4.3 −3.8

−3.6

−3.1 −2.7 −2.2       −0.4
2003   −5.3 −5.4 −4.7 −4.2 −3.4 −2.9     −1.3
2004     −5.4 −4.6 −4.1 −3.4 −2.9 −2.5    
<表11>税収(兆円)―政府目標
  2001
年度
2002
年度
2003
年度
2004
年度
2005
年度
2006
年度
2007
年度
2008
年度
2009
年度
2010
年度
2002   46.8

46.4

47.6 49.0 50.6        
2003     41.8 42.1 43.3 45.7 47.3      
2004       41.7 43.5 46.4 48.4 50.7    
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