日本経済復活の会
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政府との質疑応答
質問主意書を利用した内閣との質疑応答
−「積極財政が財政を健全化する」ことを安倍首相は「誤差」に言及しつつも認める−
日本経済復活の会会長 小野盛司
 滝実衆議院議員により、質問主意書が3回提出され、それに対する安倍総理の答弁書が返ってきた。
1.質問主意書【第一回質問】 平成19年2月13日
2.答弁書  【第一回答弁】 平成19年2月23日
3.質問主意書【第二回質問】 平成19年3月1日
4.答弁書  【第二回答弁】 平成19年3月9日
5.質問主意書【第三回質問】 平成19年3月23日
6.答弁書  【第三回答弁】 平成19年4月3日
7.質問主意書【第四回質問】 平成19年4月20日
内閣府の試算は、積極財政で財政が健全化することを示している
 表1に5兆円減税したときの効果を計算した内閣府の試算(改革と展望)を示す。
表1 5兆円の所得税減税の効果
  減税効果
1年目 2年目 3年目
名目GDP 0.78%上昇 1.26%上昇 1.28%上昇
実質GDP 0.65%上昇 0.87%上昇 0.61%上昇
消費者物価 0.16%上昇 0.48%上昇 0.77%上昇
国・地方の債務のGDP比 0.30%減少 0.17%減少 0.83%上昇
可処分所得 2.27%上昇 2.68%上昇 2.97%上昇
失業率 0.09%減少 0.18%減少 0.18%上昇
 この表より所得税減税は、成長率を加速し、デフレ脱却を助け、しかも国の借金のGDP比を減らすから財政健全化にも貢献することが分かる。これは安倍総理が所信表明演説で行った方針に沿うものであり、安倍内閣は定率減税廃止によって所得税を増税するのでなく、逆に減税をすべきだということになる。このことは第一回質問で質問された。
 これに対する安倍総理の答弁(第一回答弁)は、3年目以降は、債務のGDP比が増加し財政が悪化する可能性があるということだった。この理由は簡単で、この試算では、財政出動により景気が良くなったとき、無理に短期金利を引き上げているために、国の借金に対する利払いが増え、財政の悪化となっているのだ。そのような無理な金利引き上げを行わないなら、3年以降も債務のGDP比は減ることがわかる。簡単な例として、2.5兆円の所得税減税と0.5%の短期金利引き下げをセットで行った場合の効果を内閣府の試算を使って計算し表2で示す。
表2 2.5兆円の所得税減税と0.5%の短期金利引き下げの効果(内閣府試算)
  減税と金利引き下げの効果
1年目 2年目 3年目
名目GDP 0.85%上昇 1.30%上昇 1.34%上昇
実質GDP 0.70%上昇 0.92%上昇 0.72%上昇
消費者物価 0.20%上昇 0.49%上昇 0.74%上昇
国・地方の債務のGDP比 1.02%減少 1.57%減少 1.39%減少
可処分所得 1.35%上昇 1.55%上昇 1.65%上昇
失業率 0.09%減少 0.16%減少 0.15%減少
 この表から明らかなように、金利低め誘導とセットとした所得税減税は、高成長・デフレ脱却を助け、国の債務のGDPを減らし、可処分所得を増やし、失業率を減らす。今の日本経済にとって、これほどよい政策は無い。所得税減税の代わりに公共投資を増額しても同様な結果となる。なぜ、こんな良い政策を政府は行わないのか。このことを第二回質問で聞いている。
安倍総理からの反論にならない反論
 第二回質問に対する安倍総理の反論は、反論になっていない。この問いに対する反論は
1.ここで使用された乗数表は、計量経済モデルの特性を検討するために作成されたもの
2.計量経済モデルによる計算結果は、誤差を伴うため、相当の幅をもって解釈すべき
の2点であった。両方とも反論とは言えない反論であるから、事実上安倍総理は「積極財政が財政を健全化する」ことを認めたと言ってよい。
 この2つの理由によって、このモデルの結果は信用できないのだと言っているのであれば、それは大問題だ。このモデルは政府の経済政策に関連していつも政府が持ち出すモデルだからだ。「日本21世紀ビジョン」「改革と展望」「進路と戦略」等で使われたモデルだし、安倍首相が口癖のように言っている2011年にプライマリーバランスの黒字化というのも、年金制度改定も、このモデルが根拠になっており、このモデルが信用ならないのなら、政府の発言は全部信用ならないということになる。そうではあり得ないから、この経済モデルは信用できるに違いない。
 どのモデルでも誤差はある。それでもモデルを立てて計算をする理由は、モデルを立てずに、出任せで議論するより遙かに的中率が高くなるからだ。例えば、経済学を全く知らない無知な人は、歳出を減らせば国の借金は減るのだろうというとんでもない勘違いをしている。国の借金を減らしたいだけなら、100分の1のデノミをすればよい。一夜にして800兆円の借金は8兆円にまで減る。もちろん、GDPも同時に減るから借金を減らすことにならないことは誰にも分かる。本当は借金そのものを減らしたいのでなく、借金のGDP比を減らしたいのだから。歳出を減らせば、借金のGDPが減るのだろうか。モデルで計算すると、歳出を減らすと必然的にGDPも減り、債務のGDP比は逆に増えてしまうという結果が出る。実際、小泉内閣では歳出を減らし緊縮財政を続けたが、債務のGDP比は増え続けたから、やはり経済モデルの計算は正しかったのだ。やはり、本気で債務のGDP比を減らしたいなら、きちんと経済モデルで計算し戦略を練らねば絶対に実現は不可能である。
 2乗数表は、計量経済モデルの特性を検討するために作成されたものという議論も的はずれである。減税の効果がどうなるかは、モデルの特性の検討にも、政策の検討にも使えるはずである。また、今年発表された「進路と戦略」には、ケースAとケースBが示されていて、ケースAが緊縮財政、ケースBが積極財政の場合になっていて、結果が比較されている。これはモデルの特性を調べるための乗数の計算ではないが、結果は本質的に乗数表にあるものと同じだ。
日銀の短期金利引き上げは、景気悪化させ、デフレ脱却を阻害し、財政を悪化させる
 内閣府のシミュレーションによれば、短期金利を引き上げは、景気を悪化させ、デフレ脱却を阻害し、財政を悪化させる。それは現在の政府の目指すものとは正反対であるから、当然政府は日銀による短期金利の引き上げに反対するだろう。しかし、日銀は2月21日短期金利を0.25%から0.5%に引き上げた。日銀は過剰な設備投資を抑えるためだと言う。一方で、政府は設備投資を促すために法人税減税を行おうとしている。これは政府と日銀で政策の不一致が生じているのではないか。
 このような質問に対する安倍総理の答弁は「日本銀行総裁が政府の経済財政諮問会議において意見を述べ、政府の代表者が日本銀行の金融政策決定会合において意見を述べるなど、政府と日本銀行の間では十分な意思疎通が行われている 」ということだった。しかし、意思疎通があればよいというものではない。政府と日銀の協力なくして景気回復・財政再建は難しい。世界大恐慌のときは、日本は世界最速で景気回復をした。それは大蔵大臣高橋是清と日銀総裁深井英五が協調した成果であった。
日銀による国債保有に関して
 現在国・地方の債務残高は約800兆円、その利払い等の国債費だけで約20兆円にもなる。これは税収が50兆円前後であることを考えると巨額である。政府の予測では、国債費は急激に増え続け、2011年度には29兆円に達するそう。財政健全化を考えるなら、この問題を避けて通れない。もしも日銀が国債を買い入れ、国債保有残高を増加させれば、利払いは国庫納付金として国庫に還流させることができる。財政健全化を本格的に考えるのであれば、日銀にもっと国債を買わせるしかないのではないだろうか。
 この質問に対し、安倍総理の答弁は「日本銀行の長期国債保有の在り方は、日本銀行がその資産及び負債の状況等を踏まえて決定すべき事柄である。なお、日本銀行による長期国債の保有は、日本銀行の負債である日本銀行券の発行残高の範囲内で、安全確実な資産の保有として実施されているものであると承知している。」ということであった。
 日本銀行の長期国債保有に関して日本銀行券の発行残高を上限にしていると、深刻な問題に遭遇する。電子マネーの増加は、必然的に日本銀行券の発行残高を減少させることになるからである。また、インフレ率が上昇し始めると、タンス預金が市場に出てくると大幅に日本銀行券の発行残高を減少させる。そのとき日本銀行は大量の国債を売らざるを得なくなり、それが景気を冷やし、デフレに逆戻りさせる。したがって、日本銀行の長期国債保有に関する自主規制は、日本銀行の重大な金融政策の足かせとなり、日本のデフレからの脱却と財政健全化を極めて困難にすると思われる。
第三回質問に対しては、何も反論できず!
 第三回の質問は、極めて厳しいものであり、それに対する第三回答弁は、何も反論できず、事実上の無条件降伏といったものになった。
1. 「内閣府のモデルで使われている方程式はお粗末すぎる。例えば、民間住宅資本形成の決定係数は僅か0.068という無茶苦茶なものが使われている。」この指摘に対しては当然のことながら反論は無かった。
2. 積極財政が財政を健全化する」という内閣府の試算の信頼性と、政府の発表する「改革と展望」「進路と戦略」などの信頼性は同程度ではないかという指摘に対しても、反論は無かった。
3. 「積極財政が財政を健全化する」という内閣府の試算が誤差を問題にするのなら、第一回の答弁の信頼性も誤差を同様に問題にすべきで、自らの答弁の信頼性を否定していることになるという指摘にも、反論は無かった。
4. 内閣府試算は、1,2年は信頼できても3年以降は信頼できないのかという質問に対しては、1,2,3年とそれ以降全部信頼できないのだという答弁があった!!何と翌年の経済予測さえも、当てにならないのだそうだ?!2011年にプライマリーバランスの黒字化などと、もちろん首相の公約も当てにならないということか。
5. 内閣府試算では、短期金利引き上げで、GDPは下がり、デフレは悪化、財政も悪化という結論は誤差が大きくてその符号さえも逆転するかもしれないのかという質問には、ひたすら誤差を強調するのみ。
6. 日銀の長期国債保有限度額の上限は日銀券の発行残高となっているのは、将来的に不都合を生じるのではないかという指摘には、差し迫った問題ではないと、なんとものんびりした回答。
第四回質問主意書では、いよいよ日本経済の問題点の指摘
 日本経済は景気が回復していることになっているが、まだデフレすら脱却できていない。このことを厳しく追及したのが、第四回質問主意書である。
 詳細は質問主意書を見ていただきたい。
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